◇延宝 五年(1677)☆素堂36才 芭蕉、34才
*** 『俳文学大辞典』角川書店 ***
**五月西鶴独吟一六〇〇句(『大句数』)興行。矢数俳諧の嚆矢。
冬、信徳、江戸へ下向。このころ、上方の新進俳諧師相次ぎ江戸
へ下向。
**京で常矩・似船らを点者とする四句付・五句付興行が興る。
書『大長刀』『かくれみの』『肩入奉公』『木津乗合船』
『喜得独吟集』『複葉絵合千百韻』『釈教誹諧自悦百韻』
『蛇之助五百韻』『儒誹諧百韻』『白川千句』『浅間宮奉納集』
『宗因七百韵』『玉江草』『唐人踊』『難波千句』『両吟集』
『二百韵蛇之助馬踏』『俳諧三部抄』『俳諧之口伝』
『誹諧鼻紙袋』『官雀』『敝帚』『六百番誹諧発句合』
▽素堂の動向
六百番発句合 内藤風虎主催
判者 西岸寺任口・松江堆舟・北村季吟
連衆 風虎・露沾・似春・言水・桃青・信章外
鉾ありけり大日本の筆はじめ 信章
富士山やかのこ白むく土用干 信章
初鰹またじとおもへ蓼の露 信章
〈夜鰹やまたじとおもへ蓼の露(とくとくの句合)〉
《註》『俳諧大辞典』
この句合は岩城平城主内藤風虎が右大将家歌合になぞらえ、諸国の俳人六十名の発句を四季ごとに百五十番づつ選んで、任口・季吟・維舟らの判紙を加えた集、信章・桃青・言水ら次代の俳諧の中心を形成する若い俳人を支える風虎とその家臣の俳人が多数参加している。
《註》主催した内藤風虎(義概.後義泰)はその息子露沾とともに、素堂の一生を語るには欠かせない人物である。風虎は奥州岩城平七万石の城主でその文忠興は大阪城代として勤務していた時代もある。又俳諧だけでなく和歌も嗜み多数の家集を編纂している。この句合以後も素堂は水間沾徳を風虎家に勤仕させ、宗因を迎えるにあたっても中心的な活動をした形跡もある。
息子露沾は、素堂とは永年交友が深く素堂の逝去した翌年、黒露により編まれた追善句集『通天橋』(享保二年・一七一七)には序文を著している。素堂と内藤家との深い関係が偲ばれる。
*六百番俳諧発句合内藤風虎主催。十一月~十二月五日。
判者…釈任口・北村季吟・松江維舟。主要俳人の内容
山口信章 勝 四句 負 六句 持十句
内藤風虎 十八句 〇 二句
内藤露沾 十六句 〇 四句
北村正立 十一句 三句 六句
高野幽山 九句 五句 六句
小西似春 九句 五句 六句
望月千春 七句 二句 十一句
池酉言水 五句 九句 六句
松尾桃青 九句 五句 六句
▽素堂入集句**六百番俳諧発句合 山口信章
鉾あリけり日本の筆はしめ
四十七番 霞 見るやこゝろ三十三天八重霞
七十五番 帰鷹 ちるをみぬ腐やかヘヘつて花おもひ
百 三番 上巳 海苔若布汐干のけふそ草のはら
百三十一番 花 タかな月を咲分はなの雲
百五十九番 時鳥 返せもとせ見残す夢を郭公
百八十七番 鰹 初鰹またしとおもへは蓼の露
二百十五番 螢 戦けりほたる瀬田より参合
二百四三番 納涼 峠涼し沖の小島のみゆ泊り
二百七一番 土用干 富士山やかのこ白むく土用干
三百二九番 鬼火 鬼火や入日をひたす水のもの
三百五七番 鹿 むさしのやふしのね鹿のねさて虫の音
三百八五番 紅葉 根来もの麹みをうつせむら紅葉
四百十三番 月 宗鑑老下の客いかに月の宿
四百四一番 砧 正に長し手繊紬につちの音同
四百六七番 冬篭 乾坤の外家もかな冬こもリ
四百九五番 茶花 茶の花や利休が目にはよしの山同
五百二三番 凩 凩も筆捨にけリ松のいろ
五百五一番 雪 何うたかふ弁慶あれは雪女
五百七九番 ふぐ 世の申や分別ものやふぐもどき
▼芭蕉入集句**六百番俳諧発句合
門松やおもへば一夜三十年
霜を着て風を敷き寝の捨子哉
冨士の雪盧生が夢を築かせたり
成りにけり成りにけりまで年の暮
大比叡やしの字を引いて一霞
猫の妻へつひの崩れより通ひけり
龍宮もけふの潮路や土用干
先知るや宜竹(ぎちく)が竹に花の雪
待たぬのに莱売りに来たか時鳥
明日は粽(ちまき)難波の枯葉夢なれや
門松やおもへば一夜三十年
五月雨や龍燈あぐる番太郎
近江蚊屋汗やさざ波夜の床
梢よりあだに落ちけり蝉の殻
秋来にけり耳を訪ねて枕の風
唐黍や軒端の萩の取りちがえ
枝もろし緋唐紙やぶる秋の風
行雲や犬の欠尿(しと)むらしぐれ
今宵の月磨出させ人見出雲守
白炭やかの浦島が老の箱
〔六百番俳諧句合 素堂・芭蕉・風虎・露沾抜粋〕
★二百十五番
左 勝 瓜 池田宗旦
錫の鉢や光と七もに自真桑
右 蛍 山口信章
戦けりほたる瀬田より参合
左右皆さるかふをいへる中に兼平は修羅江口はかつら句躰も其は
とにしたかふにや左は心とゝむへく右は見所なき心ちし侍り
★二百二十二番
左 祇園会 望月千春
山山をかきて出たり祇園会
右 勝 五月雨 松尾桃青
五月雨や龍燈あくる番太郎
左の山々の文字発句度々に出て不珍やあらん
右五月雨の海をなしたる風情俳諸姉によくいへり可為 勝
★二百三十四番
左 勝 青柚 内藤風虎
軒の香も簾に入て青柚かな
右 時鳥 江口塵言
むら雨や先もたせふり時鳥
左劉禹錫か随室銘をうつしてすたれに入て青柚哉と侍る余勢いまもかほれる心ちして忘かたくやさしきさまにや右時鳥のつれなきをいはんとて村雨や先持せふりといへる故なきにばあらねと猶左にはしくへからすや
★二百四十三番
左 持 納涼 高野幽山
水無月やいつかきにけん裸島
有 岡 山口信章
峠涼し沖の小島のみゆ泊り
左は在中将の悌をうつして暑天の諸人のありさまをいへる感吟の作意といふへし右は鎌倉右大臣の言の葉より彼のよる事の涼しさをいはてまかせる手段誠に手たりの物と見ゆれは又特にや
★三百十番
左 勝 立秋 内藤露沾
枕より狐や襲ふけさのあき
右 露 吉田聞也
露こそはあはれなりけれ高蒔絵
昨日に替て秋風のおとろかすは狐のおそふ其たとへ珍重々々尤輿ありて覚ゆ露の景高蒔絵面白きりなから花なとに添て申度候あまりすけなし左勝
★三百二十九番
左 勝 七夕 武野保俊
おもひ出やこよひはてゝらふたつ星
右 鬼灯 山口信章
鬼灯や入日をひたす水のもの
星合の夜かの男はてゝら女は二のといへるをよせられたる尤輿あ
り鬼灯入日をひたすは水桶にひたしをけるにや 今少不足左勝
★四百四十八番
左 持 菌 池田宗旦
ぬれつゝそ椎茸をとる雨の中
右 紅葉 松尾桃青