〇 保明亭へ御成催の沙汰
柳澤彌太郎は、斯迄取り立てがありしか共、御目にとまりし女中のことは、一向に御沙汰なし、これは館林御在城以来、御愼深く、御側へ女中を被禁し御事なれば、さすが今更に女中を被召ん事、世の聞こえ憚らせ給うにや、公の御身にて斯く程まで御愼は余り御遠慮深き御事なりと、近臣の輩咡合(ささやきあい)て、所詮女中を被召事は御許容あるまじ、柳澤事飽迄御意に応じ、大名御取り立て有し上は何かは苦しかるべき、かの亭へ御成を勧め奉りては如何にと云うに、この義もっとも可然(シカルベキ 適当な)とて、各取々に是を申し上げれば、公もやゝ御許容の御気色なり。因って茲に柳澤保明に密談して、保明より表向きに相願わせ、老中よりこれを執し被申しける。