さびしきまゝに 芭蕉
長嘯隠士の曰、客は年日の閑を得れば
主は年日の閑をうしなふと。
素堂此こと葉を常にあはれむ。
朝の間雨降。
今日は人もなしさびしきまゝに、
むだ書して遊ぶ。其詞
喪に居るものは悲しみをあるじとし
酒を飲ものはたのしみを主とし
愁に住すものは愁をあるじとし
徒然に任するものはつれづれを主とす
さびしさなくばうからまし と、
西上人のよみ侍るは、さびしさを主なるべし。
叉よめる、
山里にこはまた誰をよぶこ鳥
ひとりすまんと思ひしものを
獨すむほどおもしろきはなし。
長囁隠士の曰、客は年日の閑を得れば
主は年日の閑をうしなふと。
素堂此こと葉を常にあはれむ。
予も叉、
うき我をさびしがらせよかんこ鳥
とは、ある寺に端居していかし句也。
暮方、去来より消息す。
乙州が武江より帰るとて、
朋友・門人の消息どもあまたとどく。
其中曲水が書状に、
予が捨てし芭蕉の舊跡を尋て宗波に逢よし。
むかし誰小鍋あらひしすみれ草
叉云
我住むところ、弓杖二丈ばかりにして楓一本、
外は青き色を見ずと書て、
わか楓茶色になるも一さかり
嵐雪が文に
狗脊(ぜんまい)の薼にえらるゝわらび哉
出代やおさな心におもひもじ
(嵯峨日記)