江戸幕府 五人組御仕置帳(享保10年)
『武川村誌』掲載
解説
五人組は、古代の五保の制にならって制度化した近世庶民の隣保組織で、はじめはキリシタン・浪人取締に活用されたが、のちには法令の遵守・貢租の完納・治安維持などのための、連帯責任による相互監察と相互扶助的機能を重視するようになった。
五人組帳は、五人組御仕置帳という。五人組の遵守すべき法令を前書に列挙し、村役人およびすべての五人組員が連署連判して、法令に違犯したい旨誓約した請書をつげた帳簿である。
条々
◇ 前まえ公儀より度たび出だされ候御法度の趣き、いよいよ以て堅く相守り、御制法の儀に相そむかざる様に、村中小百姓下じも迄申し付くべき事
◇ 五人組の儀、町場は家並、在郷はもより次第に五軒ずつ組合い、子供並びに下人・たな貸し・借地の者に至るまで、悪事仕らざる様に組中油断なく愈議せしむべし。若しいたずらものこれ有り、名主の申し付けをも用いず候はば、これを訴うべき事
◇ 隔年、宗門改帳三月までのうちに差し出すべく候、若し御法度の宗門の者これ有らば、早速申し出すべく候、切支丹宗門の儀、御高札の旨相守り、宗門帳の通り人別入念に相改むべく、宗門帳済み候てのち召し抱え候下人の寺請状、別紙取り置くべき事
◇ 五人組宗門帳に押し候ほかに印刻致し置くまじく候。若し子細候て印判替え候はば、名主・長百姓は役所迄相断るべし。其のほかの百姓は名主・長百姓へ断るべし。名を改め候はば早々五人組へ断り致し、宗門帳へも改め候名を記すべき事
◇ 切支丹ころび候もの井びに類族これ有らば別帳にこれを記すべし。
切支丹奉行所へ差出し置き候ことに候の間、たとえ他村より縁組等にて当村へ右の族来り候はば、早速注進すべき事
◇ 田畑并びに山林等、永代売買御停止に候、若し質物に書き入れ候はば、拾ケ年を限り質物手形に名主・長百姓に加判仕らすべく候、田畑質に入れ金銀借り置き、田畑をば金主に作らせ候て、御年貢地主より出し候儀仕るべからず候。惣て証文あやしき文言これ有らば、出入に成り候時、訴訟取り上げず、且つ又証人並びに名主の印形、取り置き申すべき事附り、名主・組頭へ加判願い候はば、其の様子を承り届け、早速に加判致し遣わすべきに候事衣類・道具又は門橋等のはづし金物類、出所知れざる売買物、いつさい買取るまじく候、右品々質にも取らず又は預け置くべからず、出所知れ候物にても、請け人これ無く候わば質にも取るまじく候事
◇ 惣て家業を第一に相勤むべし、百姓に似合わざる遊芸を好み、或いは悪心をもって公事たくみ致し、非公事をすすめ、偽りを以て害をなすもの、又は不孝の輩にあらば隠し置かず申し出づべし。何事によらず神水を呑み、誓詞を書き申し合わせ、一味同心いたし、徒党がましき儀、仕るべからざる事
◇ 盗賊・悪党人これ有らば、訴人仕るべし、褒美を取らすべし。其の上あだをたさざる様に申し付くべき事
◇ 百姓衣類の儀、結構成るものを着るべからず。-名主は妻子共に絹紬・木綿・これを着るべし。平百姓は木綿のほかはこれを着るべからず。
綸子・紗・綾・縮緬のるゐ襟・帯等にも致すまじく候。然れども平百姓にても身躰(身代・暮らし向き)よろしきものは、手代方までことわりを立て、差図を請け、絹紬を着るべき事
附たり、男女ともに乗物に乗るべからず。惣て屋作等目立ち候普請著がまじき儀、仕るまじき事
◇ 婿取り・嫌取りに祝儀、奮がましき儀これ無き様、分隈より軽く仕るべし。人大勢集り大酒呑むべからず、ところにより改屋の祝義、新宅のひろめ(披露)、初産の祝義などとて不相応の祝仕り脈義は停止たるべし。分眼に応じ、内所(内締)にて軽く祝い仕るべく候。祝言水祝(新婿批例の正月の神訪の帰りに、若者たちが新郎に水をかける風習)停止の事
附たり、葬礼の野酒、一切停止の事
◇ 捨て子仕るべからず。若し他所の者捨て置き候はば村中にて養育致し、早速注進すべき事
◇ 生類憐みの儀を心掛け、不実無き様に仕るべく候、不仁の義、一切仕るべからざる事
◇ 猟師のほか鳥獣一切取るべからず。猟師たりというとも鶴・白鳥を取るの儀、御停止に候、若し村中にて鶴・白鳥を売買致し候ものあらばこれを訴うべき事
◇ 牛馬を捨つるの儀、致すべからず候。よその捨牛馬並びに放れ牛馬、当村へ来り候はば、見出し次第名主・組頭へ各の村々立合い、詮義致し、持主知れ候はば其の村の名主並びに牛馬の主より手形を取り相返し、其の上早速注進すべき事
◇ 馬の筋をのべ候儀、倒停止に候、午馬売買仕り候はば出所を聞き届け、請け人を取り、五人組へ相断り売買仕るべく候。出所慥かならざる牛馬は、買い取るべからざる事
◇ 新地の寺社建立の儀、堅く停止たるべく候。惣べて月次の念仏・題目の石塔・供養塚・庚申塚・石地蔵の類、田畑山林又は道路の端、新規に一切立てまじく候。仏事・神事・祭礼等は軽くこれを執り行い、新規に祭礼を取り立つべからざる事
◇ 寺杜の儀、住持・社人替り侯はば、注進すべき事
◇ 神仏開帳致し候はば注進すべし。当村の神仏、他国へ当分相移り、開帳仕り候儀これ有らば、前方注進すべし。
又は他所より神輿を送り来り候様なる儀これ有らば、請け取るべからず。村の中に少しの間も指し置き申すまじき事
◇ 当村にこれ有り候、出家・社人・山伏・行人・道心者又は非人等、其のほか穢多のたぐい、常々吟味致し候て、うろんなる者住居仕らせまじく侯。
名主・組頭へ相達し、他村より来り候者ニ仮の宿も仕らせざる様に、右の者共へ申し付くべき事
◇ 当村の者の内、或は立ち退き、或は逐電し、或は身上潰し候て住居成り難きものこれ有らば注進すべし。
又は他より子細これ有り、立ち退き来り候もの、親類たりというとも当村に一切差し置くまじく候事
◇ 他所の者当村に有り附き、住宅仕り度しと願い候者は、其の者の出所、家職の様子聞き届け、出所の村方名主へこれを届け、慥かなる請け人手形、これを取り、宗門の旨相改め、詮義を遂げ候て差し置くべし。店借り、地かり等の者置き候儀も右同前と相心得べき事
◇ 百姓、田畑、孫子に分け取らせ候とも、一人前の高、五石より内に分くべからず。小高の百姓は孫子分け取らせまじく候。若し子細これ有り、わけ候程の義これ有らば、差図を得べし。惣べて新規に百姓有り附き候儀これ有らば注進すべく候。
跡式の義は存生の内に親類並びに名主、組頭を立ち合わせ書き付け置き、後日に出入りこれ無き様に心掛くべき事
◇ 当村の内にて能・あやつり(操芝居の意)・角力、又は狂言其のほか見せ物の類、芝居仕らせまじく候。私領にても分け郷或は村隣りにて、当村の境目とまぎらわしき地にて致し候はば、芝居始まらざる以前に早速注進すべき事
◇ 惣べて遊女・野郎(男娼)の類、一切当村に置くべからず。一夜の宿をも致すまじき事
◇ 行方知れざる者に一夜の宿も貸すべからず。旅人其のほか何者によらず、堂・宮・山林・道路に死人これ有らば、其の者の持ち来たり候雑物等相改め、名主・組頭立ち会い、様子を委細書付けにて注進すべし。堂・宮・山林に隠れ忍び、胡乱なる者有らば詮義せしめ、品々により搦め捕り、これを訴うべし。其のほか手負又は不審たる者、他所より来たり候はば出所を尋ね、付け届け致し、注進の上差図を請け候て彼の者を出だすべき事
◇ 往来の輩、若し相煩い候はば、早速医者に見せ、随分養生致し能よくいたわり、食い物など念を入れあたえ、看病仕り置き、これを注進すべし。行歩叶わず、先へ参り候儀成り難く候わば、其の者の在所を承わり届け、迎えを呼び手形を取り相渡し遣わし申すべく候。
若し病死致し候はば、其の者の道具等を改め、名主・長百姓立会い、封印を致し置き、指図を受くべき事。
◇ 殺害人或は自害侯もの、或は倒れものこれ有らば番人を付け置き、早速これを訴うべし。
火事・盗賊・喧嘩・手負いの者、惣べて不慮成る儀しゆつたい候はば、右同前に油断なく鑓・長刀等持ち出し、荷担喧しむるものこれ有らば、其の咎本人より重かるべき事
◇ 御伝馬宿へ定助・大助郷より人馬寄せ侯はば、問屋・年寄、又は名主吟味致し、猥りに人馬触れ仕るまじく候。
其の宿の馬をかこい置き、面々勝手の荷物を附け候よう成る儀、一切仕るべからざる事
◇ 御朱印は勿論、駄賃、伝馬人足の儀、常々吟味致し、滞おり無き様に仕るべき事
附たり、助郷へ人馬協れ来り候はば、刻限違えずこれを出だすべし。若し人馬割り心得難き事の候とも、先ず滞おり無く出だし、後日申し遣わすべき事
◇ 御用の人馬の義、本海道にてこれ無く候。往来の老駄賃人馬の義は、昼夜を限らず滞り無くこれを出だすべき事
◇ 御朱印、又は御証文もこれ無く、人馬出だし候様と申し、或は駄賃を出ださず通り候ものこれ有らば、其の品より押え置き、名主・組頭立ち会い、愈儀の上、怪しき躰にて候はば注進すべき事
◇ 村中申し合わせ、番屋を作り番人を附け置き、火の用心随分念を入れ申し附くべし。若し出火これ有らば、声を立て村中立ち会い、精出すべし。勿論御年貢入れ置き候蔵は大切に囲い申すべき事
附たり、風烈の時分は昼夜に限らず、切々相廻り用心仕るべく候。近在に出火候はば、早々にかけつけ、これを防ぎ申すべき事
◇ 堤・川除、切れざる様に常表申し合わせ、洪水の時は村中の者出会い、随分囲うべきの道、橋等の損じ候て往還の障に成り候か、田畑損毛に成るべき所は、惣べて小破の時早速に修覆し、自普請成り難き所は御入用にと申し付くべく候。触これなく候とも、普請場の道・橋は、常々油断なく作り申すべき事
◇ 洪水の時、堤・川除囲い候節、又は盗人・狼籍者並びに火事これ有り、声を立て候節、村中の者の内、拾五以上六拾以下の男は残らず出ずべし。若し場所へ出会わざる者あらば、名主・長百姓詮義を遂くべき事
◇ 鉄炮の儀、運上出だし候猟師、又は猪・鹿防ぎのため願侯て鉄炮渡し置き候のほか、村中にて隠し置くべからず。尤も御定めの月のほか、鉄炮打つべからず。証文の通り獲りにこれ無きよう心得べき事
◇ 御林御立山の竹木は勿論、枝、柴、下草等迄、公用のほか伐り採るまじく候。たとい下草銭出だし候て刈り取る所たりとも、苗木刈り取り候様なる儀致すべからず。御林のす(透)き候所へは苗木植え立て候様に仕るべく候。百姓の持林並びに屋敷の四壁のきわも、目立ち候木を伐り遣わし候わば、先ず書付を差し出しこれを伐るべし。堤にこれ有り候草・葭等、刈り取るまじき事
附たり、新規に堤に植えものいたすべからず。堤の際切り欠き、植えもの仕るまじく侯事
◇ 入会の野山、面々の持山にても、草木の根掘り取るまじく、鶴嘴を入れ候儀、停止たるべし。田畑へ山崩れの砂入る事(以下散逸する)
附たり、山本にて焼畑いたし来たり候所は格別、野火附け候義は停止の事
◇ 諸作第一によき種をえらみ候て蒔き、耕作に念を入るべし。荒作の様にいたし候者あらば急度詮義せしむべし。
独身にて煩い候ものこれ有らば、名主・長百姓立ち会い村中にて助け合い、田畑荒らさざる様に仕るべき事
附たり、地所に不相応の田畑、諸作他にてかわり作劣り、耕作不精成る者これ有らば吟味仕るべく候。左様の者は小検見の節も引け方申し付けざる事
◇ 常々耕作並びに商売等も致さず、家職の稼ぎこれなき者これ有らば、吟味を遂げ其の趣きを訴うべきの事
◇ 博突、惣べて賭けの諸勝負、或は百姓講と名付け、商いに事寄せ、博突に似たる義、何にても仕るべからず。若し違これ有るか、又は右の宿等を致す者有らば、早速これを訴うべき事
◇ 百姓に不似合の風俗を致し、長脇差を帯し、喧曄口論を好み、大酒を呑み、酔狂致し、行跡悪しき者これ有らば、訴うべき事
◇ 他所へ参りて二夜泊り、罷り出で候程の儀は、名主に断り罷り出ずべし。若し他国へ出で候か、又は用事候て相越し候はば、其の子細を名主・長百姓・五人組へ書付を以て相断るべし。公事訴訟に公儀へ出候共、其の趣を名主・長百姓・五人組へ相届くべき事
附たり、百姓の願い立ては名主・長百姓、奥判致すべき事
◇ 御年貢皆済これ無き以前に穀物他所へ出だすべからず。金納のため米売り候わば、先に米納の員数を積り、納米は極上米を抜置き、次の余り米を売り申すべき事
附たり、御用の置米、裏用の事に候共、名主壱人にて封印を切り、取り出し申すまじく候、相役名主、長百姓一両人にても立ち会い申すべき事、
◇ 御城米並びに荏・大豆とも名主・長百姓の内も立ち会い、青米・死米・砕米・籾糠等これ無き様に随分吟味致し、升目切れざる様に俵持えの儀、前々の通り寄せ入れ、
◇ 二重に締め、小口縄にてかがり、縄にて相結い立て、名主・長百姓・米主、且つ又手代、判の中札入れ申すべく候。外札は木にても竹にても国・郡・村、米の名ばかりこれを記すべく候。尤も船廻りに仕り候節は一貫目等念を入れ、船頭・上乗手形申し付け、相廻すべき事
◇ 御城米積出し候節、名主・長百姓立ち会い俵拵え相改め、船積み致すべし。船中に於いて米さくり取り申さざる様に上乗り・船頭共へ堅く申し付くべく侯。船掛り場所にて油断致すべからず。且つ又御米を船頭に相渡し、納め名主陸を参り候様成る事、堅く仕るべからず候。
御蔵に於いて悪米・なげ米等にまぎらわし候様成る事仕るまじく候。右上わ乗りの儀、村にて吟味を遂げ、健かなる者これを遣わすべし。御蔵前の入用並びに船中雑用等、多く入らざる様に申し付け、委細帖面に記させ、入用これを渡すべき事
◇ 御城米納めに罷り越し候者共逗留の内、悪所惣べて遊山がましき(所欠ヵ)一切罷り越すべからざる事
附たり、納めに罷り出で候節、手代等へ土間物(土産物の誤か)又は手入がましき事、堅く仕るべからざる事
◇ 御年貢金銀、名主方へこれを取り集め、拙帳に納め候度序金銀納(人字脱カ)めの名書き付け、印判これを致さすべし。名主方へ金銀請取手彩通帳に致しこれを渡し、加え帳押し切り致し遣わし置き、後日に出入これ無き様仕るべき事
◇ 御年貢皆済の納払い勘定致し、名主方へ御手代の判彩帳取り置くべき事
◇ 御年貢米納めの節、名主方より米主方へ銘々手形これを遣わし、庭帳入念に書き付け、判彩致すべし。不念にて印形これ無く、後日訴え出で候共、取り上げまじき事
◇ 惣べて公儀より下され候人足扶持・賃銭等、当座に銘々割り渡し、帳面に請取り候の趣き書き付けさせ、印彩取り置くべし。惣べて頃合いの差引勘定致すべからざる事
◇ 毎年御年貢免状出で候はば村中の者に披見仕らせ、名主・長百姓方より村中大小の百姓、出作の者にも残らず相触れ、寄り合い候て免割り致し、小物成・浮役・臨時物・米・銀、壱人ずつ委細を書き付け、小百姓へも疑わしく致さざる様に其の訳を申し聞かせ、右免状写し候て惣百姓立会い、拝見仕り侯旨を書付け、銘々印形取り置くべく、郷蔵の戸へも免状写張り置かせ、御年貢割合仕り候節、村中夫銭小入用と御年貢入れ交ぜ、一同に仕るべく候。差別を立て割り合うべく、算違いこれ無き様に随分念を入れ、御年貢の儀申し渡し、目録の通り相納め候節、常々村中申し合わすべき事
◇ 免状拝見の一札、村中の通し印形、翌年正月十日迄に指し出すべき事
◇ 公用の儀又は村中申合わせの儀に付き、名主方へ百姓の寄合、村入懸りの食物・酒・肴等、一切組み申すまじき事
◇ 堤・川除・堰場并びに道の御普請、用水掘抜き致し候節、人足等の村入用(以下欠く)
◇ 名主・長百姓を始め、惣べて前々申付の通り手代井びに妻子・召使等に至る迄、金銀米銭・衣類・諸道具・酒肴、其の他軽物成りとも、音信、礼物、一切仕るまじく候。
右の者ども若し質物・借物、或は押売、押買、何事に依らず無沙汰の義致し候はば、隠す無く有りの躰にて其の趣き申し出ずべし。隠し置き、後日に相聞こえ候わば、名主・長百姓の越度たるべき事
◇ 白分の家来並びに手代の召使当村へ参り、口上にて申す儀は申すに及ばず、自分井びに手代の印判もこれ無き書付持参にて何事を申付げ候とも一切承引すべからず。早速注進すべき事
以下略