武田信玄の警句と石臼芸
一書に云う、武田信玄の家人、長坂釣閑という者、今川氏真と北条政と二人の賢明ある短冊二枚を信玄公に見せたり。氏真は甥にて氏政は聟なれば悦ばれんと思いしに、さもなくて国持の武勇なくて花奢（かしゃ）なるは、猫の鼠を取らで毛色麗はしきが如くなり。武篇さへあれば無能なり共、至りて花奢なりといふべし。
武勇は武士の能なり。家の能にもあらぬ歌道の勝れたるこそ残り多けれ。磑（いしうす）は種々の用に立て共、座敷には存ず、茶磨は茶を挽く一能にて座上にも置なり。両人の手跡も和歌も石磨芸也と批判せられしとなり。（塩尻）