◇昌泰2年(899)2月【『古今和歌集』】
◆在原滋春…甲斐守赴任。
…甲斐の国にあひ知りて侍りける人とぶらはんとてまかりけるを、みちなかにてにはかに病をしていまいまとなりにければ、よみて「京にもてまかりて、母にみせよ」といひて人につけて侍りける歌
……かりそめのゆき甲斐路とぞ思ひこし今はかぎりの門出なりけり
【『大和物語』】
…この在次君、在中将の東に往きたるにあらむ、この子どもも人の国通ひをなむしける。心ある者にて、人の国の哀に心細き所々にては、歌よみて書付けなどしける。(中略)
…かくて、人の国ありきくて、甲斐の国に到りて住みける程に、病して死ぬとて詠みたりける。
《参考》【『古今和歌集』】所収、甲斐に関する歌
…しほの山さしでの磯に住む千鳥君が代をばやちよとぞ鳴く
…頭注…能因が歌枕を引いて、甲斐国に在りとある。今同国甲府から東北三里許、笛吹川に沿って、小邸あるあたりを「さし出」といひ、それより二里許北方にある山を「塩山」といっている。(中略)
…さし出の磯はさし出た磯の義だから、何処でもいはれる語である。
…契沖にいふ、「平家物語に、しほの山打ち越えて能登の国小田中親王の前に陣を取る。
…又能登越中の境なる「志保の山」と見えたるその「志保の山」にて、「さし出の磯」もそのあたりならん。【『古今和歌集評釈』金子本臣著】
…真淵いふ、(略)之乎(しほ)を後に「しほ」と誤り、それよりさし出の磯とは設けてよめるか。云々
…かひうた…【『古今和歌集』】所収
…かひがねをさやにも見しがけゝれなく横ほりふせるさやの中山
…甲斐がねをねこし山こしふく風を人にもがもや言づてやらむ