素堂翁は、世にありて世をはなれ、富貴は水中の泡と貧泉を苦しまず。前の大河、後ろの小流を常に吟行し、武江の東葛飾に住居し、一窓に安閑をたのしみ、花の日は立出てとかなで、雪の朝は炉中に炭などものして、沁(?)音にしたしき友を待、さて月のゆふべは即興の章おもしろく、拙からも筆をしめて、まことに其名都辺までも著し。折こそあれ、享保のはじめのとし名月の其夜果られしこと、哀も殊勝になつかしくおもひ侍りて
名月に乾く日ごろの硯かな 麦々堂 昌貢
名月に乾く日ごろの硯かな 麦々堂 昌貢