素堂と芭蕉『和漢俳諧』八月満尾。支孝編『三日月日記』
(享保十五年刊所集)
納涼の折々いひ捨てたる和漢、月の前にしてみたしむ。
破風口に日かげやよぁる夕すゞみ 芭蕉
煮茶蝿避烟 素堂
合歓醒馬上 素堂
かさなる小田の水落すなり 芭蕉
月代見金気 素堂
露繁添玉涎 素堂
張旭がもの書きなぐる醉の中 芭蕉
幢を左右に分るむら竹 芭蕉
挈箒驅偸鼠 素堂
ふるきみやこに残る御霊屋 芭蕉
くろからぬ首かき立る柘の撥 芭蕉
乳をのむ膝に何を夢みる 芭蕉
舟鈞風早浦 素堂 鈞(ゆるく)
鐘絶日高川 素堂
顔ばかり早苗の泥によごされて 芭蕉
めしは煤けぬ蚊やり火の影 芭蕉
詑教三社本 素堂
韻使五車塤 素堂 塤(いしずえとす)
花月丈山閙 素堂 閙(さわがし)
篠を杖つく老のうぐひす 芭蕉
剪吟鮎一寸 素堂
箕面の瀧の玉む簸らん 芭蕉
朝日かげかしらの鉦をかがやし 芭蕉
風飧唯早乾 素堂
よられつる黍の兼あつく秋立て 素堂
内は火ともす庭の夕月 芭蕉
霧籬韻孰與 素堂
■浦目潜焉(なみだぐむ) 芭蕉 ■(しぐれ)
蒲団着て其夜に似たる鶏の聲 素堂
わすれぬ旅の数珠と脇ざし 芭蕉
山伏山平地 素堂
門番門小天 素堂
鷦鷯窺水鉢 芭蕉
霜の曇りて明る雲やけ 素堂
興深き初瀬の舞臺に花を見て 芭蕉
臨谷伴蛙仙 素堂
元禄八月八日終
《註》『春秋』に「元禄五年八月八日歌仙満尾ス。云々とある。
支考の「和漢文操」巻の三、大和聨句ノ序に、
其後元禄之始也焉。在武江之芭蕉庵、
而素堂與故翁夜話之次、往古評漢和之為不自由、
當時論聨句之為不吟味、而其夜試有一聨之隔對。
「唐土有芳野櫻妬海棠」。山素堂
「揚州無伏見桃被悪山薑」白龍子(芭蕉)
(『芭蕉の全貌』萩原蘿月氏著より)