初桜 『図説俳句大歳時記』春 角川書店
<解説>
初花と同じ意味で、その春に初めて咲くサクラの花のことである。サクラの咲く時期は、品種や土地の気候によってずれがある。毎年桜だよりとして新聞にのる待別に早く咲き始めたサクラを調べてみると、その多くはヒガソザクラで、巻頭以西では三月中旬に咲き始め、北の地方にいくにしたがってしだいに遅れる。東北地方のような寒い地方では、ヒガソザクラとソメイョシノなどの咲き始めは、わずかしか違わないので、初桜は必ずしもヒガンザクラとは限らないわけである。したがって初桜は、土地々々で初めて見るサクラと解釈してよい。このように咲き始めに遅速はあるが、サクラが咲げば寒い冬も終わりを告げて、待ちに待った春を迎え気分もおのずと明るくなるのである。↓
はつ桜足駄ながらの立見かな 伊東信徳 「前後園」
顔に似ぬ発句も出でよ初桜 松尾芭蕉 「続猿蓑」
咲乱す桃の中より初桜 松尾芭蕉 「芳里岱」
初桜折しも今日はよい日なり 松尾芭蕉 「土芳筆全伝」
供ぶれも折にこそよれ初桜 向井去来 「菊の香」
初桜足軽町のはづれから 北枝 「北枝句集」
けふまでの日はけふ捨てて初桜 千代女 「松の聲」
わき道の夜半や明るく初桜 千代女 「千代尼尺牘」
旅人の鼻まだ寒し初ざくら 蕪村 「蕪村句集」
雨風のあらきひまより初桜 樗良 「花七日」
きのふ見しあれが禿か初桜 蓼太 「蓼太句集」
初ざくら御守の御門ひらきけり 蝶夢 「草根発句集」
自箸に蕨のあくやはつざくら 大江丸 「俳懺悔」
谷底に塩売る声や初ざくら 蒼虬 「蒼虬翁句集」
徐ろに眼を移しつつ初桜 高浜虚子 「虚子句集」
咲きたれてそよりともせず初ざくら 清原拐童 「改造文学全集」
明星はいつもの初星初ざくら 中村草田男 (万縁)
夕空に片あかりせり初桜 田中冬二 「行人」
山がかる路のうす日の初ざくら 大田鴻村 「群青」
初桜男同志も恋に似て 目追秩父 (浜)
白州町横手 関の桜