元禄辛酉之初冬九月素堂菊園之遊
重陽の宴を神無月のけふにまうけ侍る事は、その比は花いまだめ
ぐみもやらず、菊花ひらく時即重陽といへるこゝろにより、かつ
は展重陽のためしなきにしもあらねば、なを秋菊を詠じて人々を
すゝめられける事になりぬ
菊の香や庭に切たる履の底 芭蕉
柚の色や起あがりたる菊の露 其角
菊の気味ふかき境や藪の中 桃隣
八専の雨やあつまる菊の露 沾圃
何魚のかざしに置ん菊の枝 曾良
菊畠客も圓座をにじりけり 馬見
柴栞の陰士、無絃の琴を翫しをおもふに、菊も輪の大ならん事を
むさぼり、造化もうばふに及ばじ。今その菊をまなびて、をのづ
からなるを愛すといへ共、家に菊ありて琴なし。かけたるにあら
ずやとて、人見竹洞老人、素琴を送られしより、是を朝にして、
あるは聲なきに聴き、あるは風にしらべあはせて、自ほこりぬ
うるしせぬ琴や作らぬ菊の友 素堂