山口素堂消息 黒露『摩訶十五夜』素堂五十回忌追善集。山口黒露編。明和2年 1765
(前文略)けふ亜父の恩報ぜんに、はし立て及ぶべからず。山高く海深し、千峰と仰ぎ直下と見おろす。其館し奉る事は暫く置て、世に云伝ふ恩を仇にて報にハ、今一個の身の上にせめ来れり。清名けがす事あまた度なれど、生涯露ほども腹だち給ふ機だに不見、吾舅ながら実に穏柔和客の翁也し。
学は林春斎の高弟、和歌は持明院殿の御門人なと、和温の方に富とやいはん。折にふれて花のもと、月の前に扇とりて一さしかなでつ。舞曲は宝生良監秘蔵せし弟子入木道の趣、茶子の気味は葛天氏代の好き者也と拝し給ひし。あるは算術にあくまで長じ給ひけるも、隠者におかし。云々