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北杜市の偉人 朝鮮の美に魅せられた浅川巧

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朝鮮の美に魅せられた浅川巧

柳宗悦との出会い        

林業試験所(林業試験所は大正十一年八月林業試験場となった)に勤務する傍ら、巧は、兄、伯教の陶窯の研究調査に協力すると共に朝鮮に古来から伝わる民衆の工芸に強い関心を寄せた。そして朝鮮民族美術館の設立や民芸運動の創始覧きく関わりをもった。      -
この件を述べるためには、まず、柳宗悦との出合いについて述べなければならない。
柳宗悦は、明治二十二年東京に生まれたが、学生時代から雑誌『白樺』の創刊にかかわり、のち同人になった。東京帝大文学翠業後、東洋大学、明治大学、同志社大学等の教授になったが、朝鮮を訪ねて洩川巧に遇ってから、民
衆的工芸に着目し庶民の生活の中の美を啓発した。
巧の柳との出合いは、高崎宗司氏の「洩川巧関係年表」(『朝鮮の土になった日本人』)によれば、大正五年九月のことである。この前年、兄伯教はロダンの彫刻を見るため千葉県我孫子に柳宗悦を訪ねたが、この時、土産として
持参したのが李朝の陶器六面取秋草紋の染付壷であった。これを見た柳はすっかり李朝覧のとりことなり、早速、翌年京警訪ねて巧の家に泊まった。これが巧と柳との出合いである。その後、柳は朝鮮民族美術館の設立を発願し、大正十三年四月開館した。また、昭和六年一月雑誌『工芸』を創刊して、民芸運動の普及発展に専心した。そして巧は常に良き協力者であった。特に民芸運動については、その基礎は、巧が素材の提供者であり、これに理論づけをしたのが柳であったといわれている。
 昭和四年三月、浅川巧の著書『朝鮮の膳』が民芸叢書第三編として出版 『朝鮮の膳』と覇鮮陶磁器名考』された。わずか五五頁という小冊子であるが、巧の朝鮮民族とその工芸に対する理解と愛情の深さを示す名著である。

朝鮮の膳・朝鮮陶磁名考

その冒頭には祖父に対する次のような献辞がある。
 
 此書を祖父故四友先生の霊に捧ぐ
 敬愛する祖父ま
 生まれし時すでに、父の亡かりし私は、あなたの慈愛と感化とを多分に受けし悦び、郷党を導くに温情を以てし、村事に当たって公平無私なりしその生涯は追憶するだに嬉し。
 今年の夏村人挙って鋲守の森にその頒徳碑を建てしと聞けど、郷里を遠か離れてすでに二十年、墓参すら意の如くならざる身のせんすべもなく此貧しき書を供物に代ふ。
  昭和三年十二月
          京城郊外清涼里に於て 孫 巧
 
父を知らぬ子として巧を殊更に慈しみ育てた祖父四友に対する感謝の気持ちと追慕の情が、行間にあふれていて、読む者の心をうつ献辞である。さらに、本文冒頭には巧の工芸に対する考え方が次のように示されている。
 
正しき工芸品は親切な使用者の手によって次第にその特質の美を発揮するもので、使用者は或意味での仕上工とも言ひ得る。器物から吉ふと自身働くことによって次第にその品格を増すことになる。然るに如斯工芸品は世に段々少くなる傾向がある。即ちこの頃の流行は器物が製作者の手から離れる時が仕上ったときで、その後は使用と共に破壊に近ずく運命きり持ってゐない。-中略-
 そこで正しき工芸品とはどんなものかと言ふと、これには種々の定義もあり方面を異にした様々の議論もあると思ふが、以上の結果から最も簡単な標準の一つを挙げれば、工芸品真偽の鑑別は、使はれてよくなるか悪くなるかの点で判然すると思ふ。-中略-
 然るに朝鮮の膳は淳美端正の姿をたもちながらよく吾人の日常生活に親しく仕へ、年と共に雅美を増すのだから、正しき工芸の代表とも称すべきものである。
『朝鮮の膳』は前半に説明部分があり、後半に各種の膳の写真と解説が載せられているが、後半の写真部分はその殆んどが巧と柳が朝鮮民族美術館のために収集したものであるという。
 次に、昭和六年九月、巧の第二の著作として『朝鮮陶磁名考』が出版された。巧の没後五ケ月日である。
 『朝鮮の膳』が、巧の朝鮮民族に対する愛とその工芸に対する深い理解とから「愛と智慧の書」とよばれるのに対して、『朝鮮陶磁名考』は、巧が「十余年来心掛けて学び得た」李朝陶磁器についての知識から生まれたものである。
全篇は
  1. 緒言
  2. 器物の名称
  3. 陶磁器に関係ある名称
  4. 結語とからなり、
 二つの器物の名称では、李朝陶磁器をその用途から九種類に分類し、個々の器物についてその漢字名・諺文名を挙げ、それぞれの器物の正しい用途を示した。三の陶磁器に関係ある名称では、窯場及製陶用具・陶磁原料等々八項目にわたって詳細に説明した。李朝の陶磁器についての正確な知識が失われつつあったこの時期に、巧打この研究は極めて高い評価をうけた。
柳宗悦は、巧のこの著作について「著者をおいて何処にも朝鮮の陶器に対し、情愛と理解と知識と経験と語学とを兼ね備へた人は他に無い」と絶賛した。
 巧は、緒言の中で、古い
「器物が名称や用途さへも追々忘れられつつある状態」
の中で、
「生まれながらの名前で呼び掛けるならば、喜んで在りし日の昔を語り、一層親しみを感じ得ると思ふ。又延いてはその主人であった朝鮮民族の生活や気分にも自ら親しみある理解を持てることは必然である」と述べ、『朝鮮陶磁名考』の出版も究極の目的は朝鮮民族に対する理解と愛情にあることを語っているのである。
 以下、巧の工芸に関する著作を列挙すると次の通りである。

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