南アルブスの先縦者 明治・大正時代
百瀬舜太郎『現在登山全集』「北岳 甲斐駒 赤石」
昭和36年 創元新社刊(一部加筆)
明治の新思潮は、単独でも実行しうる、極めて自由な運動として登山の気風を発生させた。
日本におけるいわゆる西欧風な登山は、いうまでもなく英人牧師ウォルター・ウェストン氏によってもたらされたが、その前にふれておきたいのは、明治二年に芦安村の名取直江氏が官許をえて同四年に独力で白根登山道をひらき、甲斐ガ根神社の本宮、中宮、前官を建立したが、登山者がなく間もなく荒廃したということと、明治一九年敬神講の先達堀本丈吉という人が、赤石、荒川、悪沢の三山に大河原から道をひらいて(荒川開闢記)同三四、五年ころまで講中が相当に登山したということである。