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千家元麿 せんけもとまろ

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千家元麿 せんけもとまろ

 

『日本文学全集』全29巻 

監修 谷崎潤一郎 武者小路実篤 志賀直哉 川端康成 一部加筆


 千家元麿(18881948)東京に生まれ、慶大に学んだ。
 初め短歌を窪田空穂に学び、俳句を佐藤紅緑に学んだ。大正二年佐藤惣之助らとの同人誌「テラコッタ」を通じて、武者小路実篤を知り、「白樺」の同人となって詩人的出発をした。
その後「エゴ」「愛の本」「太陽樹」「詩」などの同人誌に作品を発表し、大正七年に処女詩集『自分は見た』を出した。ついで『虹』『麦』『野天の光り』『夜の河』『炎天』『真夏の星』『夏草』などの詩集を相ついで出し、昭和にはいって、『顧』『蒼海詩集』などを刊行した。
 元麿が、人類愛と善意の人間性を詩の主題とするようになったのは「白樺」との接触によることは明らかで、その楽天的人道主義は、元麿の詩の生涯をつらぬく最大のテーマであった。
 しかし彼の詩をつぶさに見るとき、彼が単なる童心の詩人でないことが分明する。一見無造作にみえる、そのレトリックが、いかに的確な言語機能の駆使によるものであるかがわかるであろう。彼は庶民の生活の中に、たえず真実を見ようとした。しかもそのヒューマニスティックな直感には非常な鋭敏さと新鮮さがあった。これらの天分が、彼を第一流の詩人たらしめているのである。
 晩年は、家庭的不幸と貧困におちいり終戦の混乱のさ中に病没した。ここにあげた「雁」は『自分は見た』、「村の郵便・配達」は『千家元麿詩集』よりの抄出である。
 
千家元暦 雁
暖かい静かな夕方の空を
百羽ばかりの雁が
一列になつて飛んで行く
天も地も動か無い静かな景色の中を、不思議に黙つて
同じ様に一つ一つセッセと羽を動かして
黒い列をつくつて
静かに青も立てずに横切つてゆく
側へ行つたら翅ハネの音が騒がしいのだらう
息切れがして疲れて周るのもあるのだらう、
だが地上にはそれは問えない
彼等は皆んなが黙つて、
心でいたはり合ひ助け合つて飛んでゆく。
前のものが後になり、後ろの老が前になり
心が心を助けて、セッセセッセと
勇ましく飛んで行く。
 
その中には親子もあらう。
兄弟姉妹も友人もあるにちがひない
この空気も柔いで静かな例のない夕方の空を選んで、
一団になつて飛んで行く
暖かい一団の心よ。
天も地も動かない静かさの中を汝計りが動いてゆく
黙つてすてきな早さで
見て居る内に通り過ぎてしまふ

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