三種の神器 皇位継承のしるし
東堀一郎氏著『話のタネになる本』昭和49年刊 光文書院 一部加筆
三種の神器とは、自家用車、クーラー、カラーテレビなどと、コマーシャルがいうように、家庭の高級実用品だと思われるほど、本来の意味は転落してしまいました。皇位継承のしるしとして、外国王室の王冠よりも神聖で長い伝統的な権威のあるのが三種の神器であります。皇位は寸時も中断はできないので、先帝崩御と同時に三種の神器が継承され、新しい皇位がきまり、その儀式が践祚(センソ)です。皇位につく即位式は先帝の喪が明けてから行なわれます。もっともこれは戦前の規定で、今日の皇室典範では三種の神器と皇位とは関係ありません。
三種の神器は神鏡、神剣、神璽(シンジ)の三種で、その由来は「古事記」「日本書紀」に詳細に述べられています。それによると、神鏡は、石凝姥命(イシゴリドメノミコト)が造り八爬(ヤハタ)鏡と称し、神璽は玉祖命が造って、八坂瓊曲玉(ヤサカニノマガタマ)と称しました。剣は天叢雲剣(アメノムラクモ)、後に草薙剣(クサナギノツルギ)と改称し、素戔鳴尊(スサリオノミコト)が高天原を追放されて出雲国へ下ったとき、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治して、その尾部から発見されたという伝説の戦利品です。素戔鳴尊の追放は、その暴力を怒った天照大神(アマテラスオオミノカミ)が天岩戸(アマノイワド)へ隠れられ、天地が暗くなったからです。神鏡と神璽はこの天照大神を天岩戸から出てもらうための神楽に用いたもので、神璽は賢木の上へかけ、神鏡は中の枝にかけて神楽の効果を上げたので、大神は岩戸から出られ、神璽と神鏡はお手許へおかれた。後に素戔鳴尊から天叢雲剣の献上があったので、それと合して三種の神器とし、大神の孫に当るニニギノミコトヘ授与されて日本国へ下される。ここに天皇家の祖と皇位継承を立証する神器とを生じたのであります。