甲州の和算 算法図会
甲州の和算家 弦間耕一氏著『文学と歴史』 第6号 一部加筆
此書ハ浅門(せんもん) の算題に画を添えて、先づ童子の眼を悦ばしめ、是が為に算の道にいらしめんとす。
たはむれに似たりといへども、常に有て、あそびとなすときハ、遂にハ共通に入るのたよりとなる書なり。
上は中村卯吉の「算法図会」の概要を示すものである。
この書は、初学着用に書かれたものらしく、浅間(せんもん)の算題に」幽を添えている点に、特色がある。現代風にいうと、「楽しくわかる」ようにと工夫されていた。
むずかしい和算の内容も、イラスト調であるから、いつも身近に置いて遊んでいると」自然に興味が持てるようになるというのである。
「算法図会」と同じ頃に出されたもので、「古今算鑑」の蔵版目録に載ったものに、「算法浅間抄」全一巻がある。これは書名が、浅間抄になっており、初学者に親しみ易い。しかし、浅い問題を専らに集録したといっても、点竄(てんざん)の法を初めて学ぶときに、其の理を会得する一助になるというのである。点竄は、関孝和が、中国の天元術に改良を加えて創始したもので、我が国特独の筆算式の高等数学であるから、浅間抄という書名がついても、簡単な内容ではない。従って、卯吉の「算法図会」も、広告のように、初学者用であったかは、疑問である。和算書の広告は、一般に程度の高いものであっても、平易なものであるかのように宣伝している傾向が見られる。
『算法図会』
全二巻である関流の門人の出版書として、和算専門の版元から、全国的に販売されたものである。従って、入手も可能であると思うが、国会図書館にも、和算書を多く所蔵している学士院にもない。それに、甲州で和算を学んだと思われる人達の所にも、残されていない。八代町岡が、卯吉の出身地なので、八代町の郷土史家の中村良一氏にも依頼したが『算法図会』を見つけることはできなかった。
なお管見であるが、『算法図会』を巻末の広告に掲げている算法書には、江戸中橋広小路町、雨宮弥兵衛板で、観斉内田恭が編集した『古今算鑑』や、天保十三年(1842)に初版が出きれた『算盤指南』大藪俵助茂利編、長谷川善左衛門弘閲にもある。
『古今算鑑』や『算盤指南』などの著名な和算書の広告に戴っているのだからと執念を持ってさがしているのであるが発見できない。そこで、最近は、田中代官所の手代山下次助のように、草稿は完成した」が未刊に終わった類ではないかと、時折思うことがある。